まい年まい年、月日の経つのは速いものだなあと感じています。寒いとか暑いとか言っているうちに、もう、年越しそばの準備をしなければならない時期になってしまいました。
あっ、瓦版も書かなければ。ということで、今回は、夏の東京のそば食べ歩きの話です。
この店は、入り口で食券を買うのですね。勧められるままに「ねぎせいろ」と「冷やしむじなそば」なんぞを注文しました。
店内は、いかにも時代を感じさせる落ち着いた雰囲気です。横の壁には、落語家さんの色紙が、ずらりと飾ってあったりします。
上野の駅前に、こんなそば屋さんがあるとは知りませんでした。新しい建物の間に挟まれた、私には懐かしいような、二階建てのお店です。
ちょうどお昼時で、たくさんの方が、次から次へと入られていました。お酒を愉しんでいる方もいらっしゃいます。
おそばは工夫されたもの。ネギの汁の中に、イカの天ぷらがドボンと入っていたり、むじなそばには、茹でたキャベツがたっぷりと載っていたり。別に頼んだ蒲鉾は、きれいに花形に切ってあったりします。
この「翁庵」は明治の終わり頃の創業と言いますから、いわゆる老舗ですね。でも、高級店にならず、地元の人達に愛される町のそば屋として、続けられているのです。頭が下がります。
次に行ったのは、上野の山を越えて根岸に下った「蕎心(そばこころ)」という、新しいお店です。
ここは二階建ての町家を、そのまま改装して作った小さな店です。狭い階段を二階に上がってみると、まるで、どこかの家にお邪魔しているみたいな、畳敷きの部屋でした。
店主もスタッフも若い方ばかりですが、とても丁寧な仕事をされていました。きっと、随分と修行されたのでしょう。
ここには、かんだたと同じように、揚げそばのメニューがあったりします。楽しみなお店ですね。
最後は、老舗の「上野藪そば」に足を向けました。若い頃に来たときと変わって、ぐっとモダンな建物になっていました。
周りの安売りをする店々の喧騒から離れて、ほっと出来る落ち着いた雰囲気です。
ここでは、酒のあてに焼き海苔なんぞがあって、炭の入った箱で出てきたりします。ううん、江戸情緒。名入りのせいろに、積み重ねられた時間の重みを感ぜられます。
ということで、日帰りですけれども、充分に東京のそば屋を楽しんできました。
この頃は、街を歩けば、大手チェーン店の看板ばかり目立ちます。いわゆる町の食堂と言うものが、成り立たなくなっているのでしょうか。
その中でも、そば屋は頑張っていると思います。それぞれの店で、様々な工夫をこらしていますね。
私達も、いろいろな場所でそば屋に入っては、なるほどと感心させられたりしています。
もちろん、好みの違いもあるとは思います。でも、ただ「うまい」とか「まずい」とかではなく、その、そば屋を見ていただきたい、そば屋を楽しんでいただければと思います。
せっかくの、時代をかけて作り上げられた、日本の文化ですものね。
かんだた店主 中村 和三