2024年07月

スペイン語は会話帳のカタカナ読みで通じた。

この春に、スペインの巡礼路を、
三週間ほど歩いてきたが、
心配だったのは、コミュニケーションの問題。

巡礼路は、人里離れた田舎町ばかりで、
会うのは動物の方が多い。
通りがかった牛舎の中では、
牛がモオーと鳴くし、
羊たちは、瞳を細くして、
メエ〜〜と声をあげる。

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ニワトリは、コッ、コッ、
コケコッコ〜と雄叫びをあげるし、
門番の犬は、ワォンワォンと吠え立てる。
猫は人懐っこくて、手を見せると寄ってきて、
ニャオ〜っと甘えてきたりする。
バルの椅子に寄ってくるスズメも、
チュンと鳴いてすましている。

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なんだ、スペインと言ったって、
日本と同じじゃないか。
出会った動物たちは、
皆、同じように鳴いている。
スペインの猫が、スペイン語で鳴くわけでもない。
ただ問題なのは、人間と話すときだけだ。

スペインでは、もちろん、スペイン語が話されている。
ところが、この国にも、地方によって、
様々な言葉が話されたりする。
今回の旅でも出会った、バスク語やガリシア語は、
方言の枠を超えて、全く別の言葉のように感じる。
だけど、やはり共通語はスペイン語。
私は、この言葉を勉強してきてはいるが、
なにしろ、普段は使う機会もないし、聞く機会も少ない。
覚えるよりも、忘れる方が多い歳になってしまったようだ。

 

二十代中頃に、ヨーロッパを二ヶ月余り放浪した。
その時に、初めて、スペインという国に足を踏み入れたのだ。
なにしろ、今より弱い円を持っての貧乏旅行。
スイス、オランダの物価の高さに仰天。
ユースホステルで、買ってきたパンを齧って過ごしていた。
その時、他の国のバックパッカーから、
スペインは安いよ、という話を聞いて、
フランスを縦断して、スペインに入ったのだ。

そうしたら、私の予算でも、
安宿の個室に泊まり、レストランで二度の食事ができる。
しかも、ワイン付きでね。
そうして、スペインの南の果てまで、
巡って歩くこととなった。

何よりも嬉しかったのが、
会話が通じたことだ。
えっ、スペイン語を知っていたのかって、
そうではない。

その時に持ち歩いていたのが、
ヨーロッパを歩くバックパッカーに人気のあった、
六カ国語会話集という、小さな本。
日本語の見出し表現の後に、
英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、
そして、スペイン語の言い回しが載っている。
親切なことに、
その各国の本来の文章に、
カタカナのルビが振ってあるのだ。

だから、
ホテル(らしきところ)に行って、
「キエロ・ウナ・アビタシオン」といえば、
ホテルの人は、すぐに察して、
安い部屋に案内してくれる。
一日中開いているバルというところへ行って、
「ウナ・カニャ」と、本を読めば、
ちゃんとグラスに注がれたビール が出てくるのだ。

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スペインでは、会話集をカタカナ読みしだけで、
意味が通づる。
これは驚きだった。
フランス語や英語では、
カタカタ読みは、まず通じないと思った方がいい。
フランスのホテルの部屋の電気が消えた時、
それを伝えるのに、どんなに苦労したか。
会話集を放り出し、とにかく部屋まで来てもらった。
オランダのカフェで、一杯のオレンジジュースを頼むのに、
何回、下手な英語を繰り返したことか。

なのに、スペインでは、
会話集を読むだけで、
まあ、飲む、食う、寝る、動くことができたのだ。

いつかこの国の言葉を覚えたいものだ。
人々の優しい会話であふれかえる、
バルのカウンターでワインを飲みながら、
若き日の私は、そう思ったのだ。

、、、それがいけなった。

当時、長野でスペイン語を学ぶといえば、
ラジオ講座ぐらいしかなかった。
だけど、一人で、何の予備知識もなく、
新しい言葉を学ぶのは、とても難しいことなのだ。
皆さんも、ご経験があることだろう。

何年かして、長野の英会話学校で、
スペイン語クラスを始めると聞いた。
しめた、これで本格的にスペイン語が勉強できるぞ、
と思って、早速申し込み。
初日のクラスには、狭い教室に、
なんと、20人近くの生徒が集まっていた。
嬉しかったね。
今まで孤独に、
ただラジオと向き合っていたのに、
こんなに仲間がいたんだ。

でも、そう喜んだのも、束の間だった。

という話は、また今度、、。

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