手打ちそば屋は眠れない

昔はそば屋の汁に、鰹節は使われなかった。

「おそば屋さんで、鰹節を使うなんて、
 もったいない、もったいない。」
もう、だいぶ前にお亡くなりになったけれど、
老舗の鰹節店のおばあちゃんが、
私が鰹節を買いに行くたびに、
そう言っていた。

東京の築地の卸店のご主人も、
ご自身のブログで書かれていた。
昔は、そば屋から鰹節の注文が入ることは、
ごく一部を除いて、無かったのだとか。

そば屋が使っていたのは、
さば節やそうだ節などの、
いわゆる雑節というもので、
使っても、せいぜい亀節(小型の鰹の節)ぐらいだったらしい。

昔のそば屋は庶民的な存在。
その中で、安価に美味しく食べるさせる、
工夫をしていたのだね。
それが高度成長の時代となって、
食べ物の質が問われるようになると、
そば屋でも鰹節を使うことが、
当たり前になったようだ。

ご存知のように、
そば屋の出汁の取り方は、少し変わっている。
厚削りの節を、長時間、
そこそこの火力で煮詰めて作る。
節の持つコクを引き出す作り方だ。

東京周辺では、本枯れという、
カビ付けけた節が好まれるが、
関西では、荒節というカビ付けしない節が、
多く使われるという。
合わせる醤油の違いにもよるのだろうね。

鰹節の産地は、鹿児島産が多く、
ついで静岡となる。
ちなみに、この頃は、
インドネシア産、フィリピン産も入ってきている。
これは、もちろん、日本の会社が、
より、カツオの産地に近いところで、
国内と同じような工程で作らせているのという。

ちなみに、鰹節作りは、
とても複雑な工程を経て出荷される。
人手も時間も必要な作業なのだね。
だから、多少値が張るのもうなずける。

さて、この鰹節、
とても困った問題がある。
なにしろ、元は生の魚だ。
どうしても、季節や個体によって、
変動がある。

だから、厚削りの様子を見ただけでは、
美味しい出汁が出るかは、
わからないのだ。

正直な節屋さんが言うことには、
ツユにして見るまでわかりません、
とのこと。
値段で仕入れてみて、
痛い思いをしたこともあったっけ。
だから、信用のおけるところから、
仕入れなければ。

ところが、最近、
お付き合いした地元の節屋さんが廃業。
言うことには、
「今どきの店は、節で出汁をとることはなくなりました。」
とのこと。
はて、またまた世の中の不思議が増えてしまった。
節からではなく、どのように出汁を取るのだろうか。
そもそも、出汁など使わないのかな、、、。

と言うことで、
「今どきの店」になれそうもない私は、
時間と手間をかけて、
節から出汁を作り続けるのだ、、、。

 

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