時々、他のそば屋に行く時がある。
なかなかそういう時間がないのだけれど、
機会があれば、色々なそば屋に行ってみることにしている。
別に、評判になっている店とか、
みんながうまいとかいう店ばかりでもない。
立ち食いそば屋でもいいし、
昔ながらのそば屋でもかまわない。
とにかく、どんなところでも、
自分の商売の参考になるタネが転がっているような気がする。
皆さんだったら、
そばが美味いとか、自分の口にあっているとか、
量が多いとか、サービスがこなれているか、
なんぞを見るのだろうが、
私は、あまり気にしない。
そば店には、それを対象とするお客さんがいて、
それにあった商売をしている。
大衆的な店もあれば、旅行客向けの店もある、
こだわり客を引き入れている店もある。
それぞれに、
そういうお客様に合わせたそばを出しているのだ。
だから、そういう店の、仕事ぶりを見させていただくわけだ。
商売をしている目というのはつまらないもので、
すぐに、その店の商売を係数的に眺めるクセがついている。
店内の配置、席数とスタッフの人数、
メニューから割り出す平均単価、
使っているそば粉や調味料の仕入先、
提供している器の値段、、、、
などを、つい、無意識的にはじき出してしまう。
そして、そばや料理を味わうことによって、
廚房での仕事ぶり、ご主人の人となりを想像したりしてしまう。
料理を早く出すために工夫を重ねていたり、
また、時間がかかっても、一つ一つ丁寧に出さないと気が済まない人もいる。
店内の様子も気になるところで、
きれいに掃除がされているかどうかは、
大衆店、高級店に限らず、大切なポイント。
けっこうこだわり店で、そういうところが欠けていたりして。
うちも気をつけなくては。
壁にビール会社のポスターが貼ってあれば、
気楽にそばを楽しめる店。
ちょっとした、書画や、季節の花が飾ってあれば、
歌ごころのあるご主人の店。
窓際に、プラスチック製の造花が飾ってあれば、
ここは、偽物を本物に見せようとしている店。
ある店では、山の花の写真が、
壁いっぱいに飾られている。
聞けば、ご主人が好きで、ご自分で撮ったものなのだそうだ。
そういう話を聞けば、その店に親しみが湧く。
そして、その店が、どんなお客様を相手にしているのかは、
飲み物のメニューが参考になる。
日本酒を見れば、
どんな質のものを置いてあるかで、
だいたい想像出来たりする。
でも、大衆的な店なのに、
けっこうな銘酒が置いてあったり、
逆に、高級店なのに、あまり、
心が動かない酒しか置いていないところもある。
だから、つい、
確かめたくて、私の苦手な酒を、
嫌々ながら注文することになったりする。
ある店なんぞ、
そうそうたる銘柄の酒がメニューに並んでいて、
そばが端っこに小さく書かれている。
あとで調べたら、
もともと酒屋の跡取りだったのが、
そば屋になりたくて修行して開業したのだそうだ。
なるほど、人生を感じるねえ。
そばというと、
どこどこ産のそば粉だ、
自家製粉の粗挽き粉だとか、
香りがどうのとか、
そんなことにこだわる方も多い。
それも、たしかに大事なことだ。
でも、自分の好みの、
すごく狭いところにそばを置いてしまうと、
とても窮屈な気がする。
最近面白いと感じるのは、
昔からある、大衆的なそば屋さんだ。
たしかに、そばだけを食べれば、
通をうならせる程ではないかもしれないが、
その分、メニュー等に工夫がある。
ひと昔前には、かなりひどいそば屋もあったが、
今は、さすがに淘汰されたみたいだ。
そこを生き残ったそば屋には、
それなりの、努力があるのだね。
そして、そういうそば屋が、
昔ながらの、種物なんぞの技を伝えている気がする。
そば屋のそばは、
ただ、食べて美味い、不味いだけで、
決めつけるものではないと思う。
どこのそば屋も、
お客様を喜ばせるために頑張っている。
だから「そば屋」そのものを、
もっと楽しんでいただきたいなあ、、、、
と思うしだい。
私も、もっと、他のそば屋を食べ歩いてみたいものだ。
去年東京に行った時に入った、
上野駅前の「翁庵(おきなあん)」さん。
暑かったので「冷やしむじなそば」なんぞをいただいた。
いかにも地元の方々に愛されている感じのお店。
いいねえ。