先日、ある蕎麦屋でそばを手繰っていたら、
あとから来た人が、
そばの大盛りを注文した。
そしたらご主人が、大盛りはやっていないという。
一枚召し上がっていただいた上で、
追加のご注文をお願いいたします、
との、丁重なご説明。
そこは、粉も自分で挽いている、
こだわりのお店。
自分の苦労をかけたそばを、
最後まで美味しく召し上がっていただくために、
あえて、そういう選択をしているのだね。
東京の老舗の蕎麦屋でも、
大盛りという頼み方は無いところが多い。
そばは伸びやすいので、
一度にたくさんのそばを盛れば、
最後の方は、味がだれてしまう。
だから、たくさん召し上がりたい方は、
「御替わり」を頼んだほうが、
美味しくいただけるというわけだ。
老舗のそばの盛りが少ないというのも、
同じ理由による。
一度に食べるそばの味が、
舌に飽きないうちが、そばを楽しめる。
つい勘ぐりたくなるが、
けっしてケチなわけではない。
なんでも、昔のそばの盛りは、
今よりずっと少なかったらしい。
明治の初めに撮られた写真で、
芸者さんたちが、何人かでそばを食べる写真を見たことがある。
それぞれの女性が、せいろを何枚も積み重ねているところを見ると、
この人達はよっぽど大食い、、、、
ではなく、一枚のそばの量が少なかったようだ。
なんでも、明治の終わり頃までは、
そばの一人前といえば、
せいろが二枚来たのだそうだ。
今でも長野県の中部や南部では、
そんな習慣があって、
一人前と頼むとそばが二枚来る店がある。
だから、せいろ一枚の量が少なかったのだね。
確かに、食べ比べてみると、
少ない量で、その都度そばを茹でてもらったほうが、
飽きずに、そして、量をいただけるようだ。
なんでも、大盛りと注文される前に、
そんな食べ方も試されるといいかもしれない。
ちなみに、かんだたでは、
しっかりと大盛りがあったりして。