さて、コロナウイルスの影響で、
60日間の休業をし、
営業を再開して一週間。
まだまだ、
店を支えられるほどの売り上げには程遠いが、
知り合いが来てくれたり、
ご常連のお客様のお顔を見られたりして、
ありがたいことだ。
中には、
だいぶ休んだのだから、
そば打ちを忘れたのではないの?
などと言われる方も。
そんなことはないですよ、
と答えたものの、
内心、ドキリ。
いやいや、忘れたわけではないのだが、
何やら、体が重たいのだ。
やはり、これだけの期間の休みは、
体の動きに、影響しているのだね。
スペイン語のことわざに、
「悪魔はすることがないと、
尻尾でハエを殺している。」
と言うのがある。
要するに、悪いことをする奴は、
ひまな時でも、悪いことをし続けるものだ、
と言うような意味だろう。
日本語で言えば、
「小人閑居して不善をなす」と言うことかな。
そう、コロナウイルスのおかげで、
営業ができず、時間ができたので、
これを機に、普段できなかった、
いろいろなことをやろうと思っていた。
日頃の運動不足を解消するために、
少しは筋トレをやってみよう。
一月に行ったスペインで実感したので、
スペイン語の勉強をしよう。
これを機に、村上春樹の小説を一気に読もう。
まるでゴミ箱のような、
自宅を整理しよう。
畑の野菜も、しっかりと育てよう。
ところがところが、
実際には、そんなところでなかった。
店の掃除や修理。
いすの修復や、大工さんに頼んで、
床の張り替え。
店内の掲示の書き換え、
パンフレットの作成。
ホームページの内容の書き換え。
なんぞをやっていたら、
あっという間に、日々が過ぎていくのだ。
いちばん精力を使ったのが、
お役所言葉の翻訳だ。
これがねえ、実に不思議で、よく理解できない。
しかしながら、正当な補助は受けるべきだと思うので、
なんとか書類を自力で作り上げた。ふう。
で、やりたいことができない、
いちばんの原因は、不安。
どなたでも感じていることに違いない、
見通せない将来への不安なのだね。
ここで、誰かの悪口を言っても仕方がないし、
かえって惨めになるだけ。
とにかく、目の前にあることを、
淡々とこなしていくしかない、
と割り切るようにしている。
そんな中、救いになったのは、
近所の河原に育っている、
四匹のキツネの子供達の姿だ。
こんな人の近くに、
誰でもが見られるような場所に、
用心深いキツネが
子育てをしている。
何しろ朝早く出なくては、
見ることができない。
だから、朝5時前に起きて、
川沿いの遊歩道に出かけるのだ。
ああ、眠い。
驚いたのは、
その時間に、すでに多くの人が、
河川敷を歩き回っているのだね。
高校生の陸上部は、
ほぼ休みなしで練習している。
カキンという甲高い音を立てて、
ゲートボールのコースを回っている人もいるのだ。
夜行性のキツネは、
朝に眠りに入るらしい。
最初は、遊びまわっていた子供たちも、
やがて寝姿しか見られなくなった。
これから草が育ってくれば、
そんな姿も見られなくなるかもしれない。
通りかかる人も、今日は何匹見える、
とか言いながら、優しく見守っている。
そんなことで、
これだけ休んだのに、
体重は減らなかったし、
村上春樹も読めなかった。
家の中も片付いていない。
自分で取る休みと、
取らざるを得ない休みでは、
全く意味が違うのだね。
ズペインのことわざのように、
私は尻尾で、ハエを殺し続けていただけなのかなあ。
意味のある休みが取れるように、
なれることを。
母ギツネは、さすがに警戒している。