●ある「いろはかるた」の文句から、
ーい 勢いをつけよお客の迎え声
ーろ 緑青(ろくしょう)に気付け銅鍋、銅しゃもじ
ーは 繁盛の木に油断の虫が喰い。
そっ、そんなこと言われたって!
あのぉ「緑青(ろくしょう)」ってなあに?
これはいったい、
何の「いろはかるた」なのだろうか。
ものの本によると、
何でもそば屋を営んでいた、長野の岡本さんが、
昭和8年に作った「かるた」なのだそうだ。
そば屋の宣伝として、
刷り物にして広く配布したという。
昭和8年といえば、
先頃亡くなった、三遊亭円楽の生まれた年。
ドイツでは、ヒトラーが政権を取り、
日本は国際連盟を脱退した年。
今から、七十年以上前に作られた、
そば屋のかるた。
これがねえ、今でも耳に痛い、、、
のだ。
●その当時といえども、
やはり、店の衛生、清潔が大切。
常に、整頓と、道具の整備を怠らないこと。
ーち 散らかった、店にお客は寄り付かず
ーれ 料理場にさびた包丁、赤い恥
なるほどねえ、最近はさびない包丁もあるけれど、
やっぱり、手入れは必要。
最初の「緑青」は、銅製品に出来る青緑色の錆。
昔は、鍋やおろし金、ひしゃくなどに、
銅がよく使われた。
手入れをしないで、水に濡れたままにしておくと、
すぐに、青い色が浮いて来て、
さぼっているのがわかってしまう。
●そば屋というのも商売。
お金に対する考え方も大切。
ーし 仕入れものすべて現金、借りぬよう
うう〜ん、これは大事なことだ。
そば屋は日銭商売。
下手に、つけを溜めてしまうと後が大変。
ーり 流行は着物にきずに店にかけ
たとえ儲かったとしても、
贅沢をしてはいけない、という戒め。
ーひ 控えめに費(つか)わぬ財布足を出し
商売が大きくなってくると、
つい、気も大きくなって散財しがち。
ぐっと引き締めなければ。
●さて、そばの味も大切。
ーほ ほめられて気をゆるめるな塩加減
そう、ほめられたからって、
いい気になってはいけない。
ーて ていねいは下手も上手の仕事をし
まずは一つ一つ、
丁寧な仕事をすることが、
お客様に喜ばれる秘訣なんだねえ。
ーみ 磨け腕、自慢は道の逆戻り
商売に慣れてくると、自分のやり方に、
いや、自分のやり易いやり方に傾いていきがち。
腕自慢に満足しては、時代に取り残されてしまう。
ーの のびたそば売る店だんだん縮こまり
そりゃあ、そうだろうねえ。
ーね 値で売るな味と仕事と品で売れ
ほらほら、耳に痛い。
クーポン券や値引きで人を集めたって一時的なもの。
やはり、そばの味で評判にならなければ。
それに「品」とあるところが、ちょっと憎い。
●商売は、昔も今も、
お客様に喜ばれてこそ、
成り立っていくもの。
ーに ニコニコの店に閑(ひま)なし客の山
ぶっきらぼうの店よりも、
笑顔でそばを出された方が、
気分がいいもの。
これがねえ、わかっていても、
続けられない店が多いのだ。
ーゆ 有名になるほど店の腰低く
うちは有名じゃないから、
腰が高くてもいい、、、、わけがない。
ーお おいしさも、まずさも一つは店気分
料理の味の感じ方も、
店の雰囲気や接客によって左右される。
目のつかぬところにも気を使い、
お客様をもてなす気持ちを店が持たなければ、
どんなにおいしいそばを出したところで、
おいしく感じなくなってしまう。
●この昭和の初めの頃の、
そば屋の作った「かるた」を読んでみると、
今も昔も変わらない、商売の姿が見えてくる。
当時の商売も、厳しいものがあったのだろう。
ここに書かれたことは、
今でも充分に通じること。
そば屋という生業を続けていくには、
常に、こうして自らを戒め、
注意を呼び起こしていかなければ。
特に、こんな言葉はね。
ーゐ 居眠りは不体裁ぞや店の番
居眠りをしたいほど閑なときも、
時々あるもので、、、。
そばコラム