●先日の取材に来られた、
テレビのレポーターの方は、
目のクリッとした、かわいい方だ。
こういう若い方と話をするだけで、
つい鼻の下が伸びてしまう、、、
あ〜あ、おじさんになってしまった私。
その目玉ちゃんは、マイクを突き出して、
いきなり、こう聞く。
「あの、この店のおそばは、
どんなおそばなのですか。」
はっはっはっ、このくらいの質問なら、
カメラの前でも慌てずに答えられるぞ。
「はい、外二の割合で打った、
細めの手打ちそばです。」
テレビに出る方は、
たいていオーバーなアクションをする。
目玉をさらに大きくして聞いてくる。
「えっ、いま、ソトニ、とおっしゃいましたね。
ソトニってなんですか。」
「はい、そば粉とつなぎ粉との割合のことで、
そば粉が10に、つなぎ粉が2の割合になります。」
そうしたらレポーターさん、自分の指を広げ、
「だって、そば粉が10で、
あとの2はどうやって足すんですか。」
などという。
なるほど、テレビを見ている人に解りやすくするために、
わざとトボケているのだね。
こういう仕事も大変だ。
「ええ、そば粉を10杯鉢に入れて、
つなぎ粉を2杯足せばいいのです。」
「あっ、そうか。
10杯と2杯と言うことなのですね。
ところで、つなぎ粉って何ですか。」
「そばを作る時に、そばだけではまとまりにくいので、
つなぎ粉を入れて、つながりやすくするのです。
それによって、そばが切れずに、つるっと食べられるようになります。」
うん、我ながら、優等生的回答。
「そのつなぎ粉って、何を使うのですか?」
「小麦粉です。」
そうしたら、またまた、目玉がぐぐっと大きくなって、
のけぞるように驚いた表情でいう。
「えっ、そばって、!うどん粉!が入っているんですか?」
何も知らないフリをする、
目のクリッとしたレポータさん。
いくら仕事だからといって、
そこまでボケなくても。
(ひょっとしたら天然?)
●、、、ということで、
こういうテレビの取材は疲れるなあ。
でも、あとで放映された映像を見たら、
ちゃんと『大人』向けに編集されていた。
たしかに、
そばは「外二(そとに)」で打ちました、
といっても、普通の人には解りにくい。
その度ごとに説明しなければならないのが現実。
なぜ「二八(にはち)」と呼ばないのか、
とも聞かれたりするが、
だって、「二八」は8対2の割合。
「外二」は10対2の割合。
微妙にそばの濃さが違うのだ。
それに、
「二八そば」という言葉には、
ただ単に、そば粉の割合を表すだけでなく、
小麦粉のつなぎを入れた、
一般的なそばを指す意味としても使われているんだ。
東京にいた頃に使っていたそば屋も、
表にはしっかりと「二八そば」の看板があるのだが、
親父さんに聞いてみると、同割りだという。
つまり、5対5の割合。
出前も種物も扱うそば屋としては、
そのくらいが、麺線を保つ限度らしい。
江戸末期に、街で売られたそばは、
相場が16文と決められてという。
そこで、そのそばを、
2×8で、16文で食べられるということで、
「二八そば」の名が広まった。
だから、「二八そば」の看板を掲げる店は、
「生そば(きそば)」(十割の意味)の看板を掲げる店より、
庶民的な店ですよ、
と、アピールしたわけだ。
けっして、そばが八割、つなぎが二割の意味ではなさそうだ。
●しかしながら、今では十六文ではそばを食べられないから、
本来の割子の割合と関係なく「二八そば」と名のるのは、
はなはだ、解りにくい。
今だったら、500円の「ワンコインそば」とか、
ドルも安くなったので「9ドルそば」とか、
大手の雑誌と同じ値段の「文芸春秋そば」とか、
近くの有料駐車場の駐車料金と同じになる「1時間半そば」とか、
まあ、いずれにしろ流行りそうもないが、
別の呼び方があるだろう。
そば粉の割合でいえば、
「同割(五五)」「六四」「七三」「二八」「九一」
などの呼び方がある。
あれ「二八」だけ、そばの割がひっくり返っている。
まあ、中には「逆七三」(そば粉3:つなぎ粉7)なんかもあって、
なにがなんだか。
ちなみに、乾麺では、
「逆七三」以上のそば粉の含有率がないと、
「そば」と表示できないことになっているらしい。
乾麺の業界の皆さんは、かなりぎりぎりの割合で、
苦労をされているみたいだ。
でも、そのくらいの割合で、
しっかり、そばの風味を出しているのも、
たいしたものだと、感心してしまう。
●で、さっきから、そんな話をせせら笑っているのが、
「十割そば」なのだ。
俺こそが、混じりけなしのそばの本道よ、、、、
などと威張っているが、
どっこい、
栄養面で見ると、
二三割小麦粉を混ぜたそばの方が、
バランスがいいそうだ。
十割そばを打つと、よく聞かれるのが、
「長芋でつないでいるのですか?」
「たまごを使っているのですか?」
という質問。
「十割そば」というのは、
そば粉と水だけで作るそばのこと。
他には何もいれていません。
そば粉には、水で溶くと、
もともと、ねっとりとして、くっつきあう性質がある。
その性質を、最大限に生かしてそばを打てば、
「十割」で打つことも出来るのだ。
でも、
そば粉の皆さんは、飽きやすい性格のようで、
くっつきあっているのが、長持ちしない。
だから、小麦粉のようなホスト役、またはホステス役を入れて、
円満に生地が繋がるようにしている訳なんだね。
●昔は「色の黒いそばの方が、そば粉の割合が多い。」
などと言われたりしたが、
色の白いそば粉もあるので、
色と、そば粉の割合とは関係がない。
ソバの実の外側の部分を多く挽き込むと、
黒っぽい粉になるまでのこと。
でもねえ、
そばを一口食べただけで、
「これは七三のそばだ。」
「これは九一だ。」
などと判る人は、
まあ、あまりいないことだろう。
ただ、使っているそば粉によって、
また、店の人の考え方によって、
一番使いよい、そして、おいしくいただける割合があるのだろう。
それが私の場合は「外二」だったわけだ。
十杯と二杯。
粉を量る時に、計算しやすいから、、、
、、というのも、あるかなあ。