●そばは育つ

 そばは食われて殻を残す。

● さて、長野はもう稲刈りの季節。
田んぼでは、稲がたわわに実っている。
今年は、天候にも恵まれて、
おいしいお米がたくさん穫れそうだ。

ところが、その米を横取りしようとするものがいる。
そう、バタバタと集団で飛んでくる雀たち。
そのために、稲の上にネットを張ったり、
キラキラ光るものを吊るしたり、
はたまた、数分置きに鉄砲のような音を出す装置を仕掛けたり、
と、農家の人は工夫している。

古くからの方法だと、
「かかし」を立てて人が居るようにみせたりした。
今でも、いかにも手作りの「かかし」を、
見かけることがあって微笑ましい。

さて、やはり長野では、そばの実も、
まもなく収穫の季節を迎えようとしている。
葉が落ちて、黒っぽい茶色の実が、
点々と塊になって、茎にぶら下がっている。
こちらも、雀に食べられないように、
ネットをかけたり、「かかし」を立てたりしなくては、、、、
という光景は、そば畑では見かけない。

雀は、米には群がるけれど、
そばの実には、見向きもしないのだ。

●私の小さな畑でも、
春に、豆の種を蒔く時には要注意。
畝を作って、豆を一カ所に3粒ぐらいずつ蒔いていく。
そして、ふと、振り返って見ると、
いつの間に鳩が数羽来ていて、
蒔いたばかりの豆を掘り起こしているのだ。
あわてて、追い立てる。

だから、豆を蒔くのは、鳥たちの目が利かなくなる夕方。
そして、すぐに、ネットで覆っておく。

ところが、そばを蒔く時には、
そんな気遣いは不要。
昼間から堂々と蒔いたって、
鳩もカラスも寄って来ない。
残った蕎麦粒を畑の隅に置き忘れたって、
一週間経っても、何の変化もないのだから。

そばの実は、
鳥たちには、まったくの不人気なのだ。


●そばの実は、三角形の固い殻で包まれている。
これが本当に固い、しっかりとした殻なのだ。
この殻があることが、
鳥たちの興味を惹かない一つの原因なのかもしれない。
 
でも、あの悪食のカラスさえ突こうとしない、
そばの固い殻を、
われわれ人間は、剥いて食べている。

とはいえ、このそばの殻を剥くのは、
けっこう難しい作業。
今でこそ、機械がやってくれるけれど、
昔は大変だったようだ。

家庭などでは、皮を剥かずに、
そのまま石臼で挽いて、
フルイにかけて、粉にならない殻の部分を、
取り除いていたそうだ。
今でも、田舎そばと呼ばれるものには、
そのようにして作られた粉を使っているものもある。

●そういう粉はともかく、
殻を取り除いて、粉にするのが、
一般的なそばの作り方。
私たちが、どんどんとそばを食べると、
やはり、どんどんと、そばの殻の山ができることになる。

さあ、このそば殻の使い方と言えば、、、、、

皆さんご存知ですね。

固くて湿気を含まない、
しかも安価なので、
盛んに使われた。
そう「そば殻まくら」としてね。

一時期は人気で、
日本で食べられるそばの殻だけでは間に合わず、
そば殻だけ中国から輸入するということも、
あったそうだ。

それが、今では、
音がうるさい、手入れが悪いと虫がわく、
値が安いので、店が儲からない、、、、
などの理由で、
あまり使われなくなってしまったという。

私は今でも「そば殻まくら」を使っているけれどね。
適当な固さだし、
夏でも、涼しくて具合がいい。

けれども、あまり売られているところを、
見なくなってしまったのは確かだ。

かくして、毎日大量に出るそば殻の、
行く場がなくなってしまったのだ。

●かくして、その硬さから、
鳥たちのクチバシから、
実を守っていた、そばの殻は、
いまや、産業廃棄物扱いになってしまった。

動物の飼料にはならないし、
堆肥にするには、固くてなかなか分解しない。
それでも、一部には、
炭に加工されて、「くん炭」として、
畑の土壌改良に使われているという話だ。

また、果樹園などでは、そば殻を蒔いておくと、
雑草が出にくくなるといって、
一面に敷き詰めているところもある。
私の畑でも、
瓜やカボチャのつるの延びる場所にそば殻を蒔いている。

そんなふうに使われるのはごく僅か。
今や、厄介者となってしまったそばの殻。
ところがねえ、今まで栄養分はないとされていたそばの殻にも、
実と同じぐらいのルチンや有効成分が含まれていることが、
最近、分かったらしい。

そのうちに、このそば殻から、
「からだを元気にするサプリメント」などと言うものが作られ、
大々的に売り出され、ブームになる、、、、、、、かも。