かんだた瓦版

畑仕事から学ぶこと

畑仕事から学ぶこと

 かんだたでは、北アルプスの雪解け水の流れる犀川の河川敷に、小さな畑を借りて、無農薬で野菜を育てています。といっても、野菜はなかなか思うように育ってくれないのです。だから、定休日には、その畑で汗を流します。

 実は、東京生まれの私は、畑仕事など、したことがありませんでした。15年ほど前に、居酒屋を始めた時に、親切な近所の人が、畑を貸してくれたのです。畑で野菜を作って、店で使えばいいって。

 なあに、野菜作りなんて、簡単さ。最初、私はそう思っていました。畑を機械で起こしてもらい、種を植えました。

 しばらくすると、芽がでてきます。  しめしめ、これで、レタスもカブもトマトもできるぞ。そのまましばらく放っておいて、どれ、畑の野菜は、そろそろ育ったかな、などと思いながら、久しぶりの畑に行ってみると、、、なんだ、これは!

 草が一面に、膝の辺りまで伸びていました。私のレタスはどこ?トマトは?ネギは??

 周りの畑が、きれいに、草一本生えていないのが不思議でした。

 結局その年は、ただ、草を育てただけで、また、機械で起こしてもらいました。

 

 それから、いろいろなことを、他の人から聞くようになりました。他の畑がきれいなのは、毎日、朝早くに草取りをしているからだと分かりました。それでも、私には、毎日のように草取りに行っている時間がない。

 いろいろな理由をつけては、畑に行かず、毎年、草だらけににしてしまいました。でも。そうしながらも、少しづつ、野菜は育ちました。特に、あまり手間のかからないネギやジャガイモは、重宝しました。ナスや、キュウリも収穫できるようになりました。

 

 ある年のことです。
 その年は、ことのほか、トウモロコシがよく育ちました。これはいい、おいしいトウモロコシが穫れるぞ。ところが、そこで私は、欲を出しました。きっと、ここで肥料をたくさん与えれば、驚くほど立派な実ができるに違いない。そこで、化学肥料をたっぷりと与えたのです。

 一週間後、トウモロコシは茶色く枯れ、虫がいっぱい集っていました。肥料が強すぎて、根が焼けてしまったのです。

 

 ある年には、サツマイモの茎がよく茂りました。これだけ茂れば、きっと、立派な芋ができているに違いない。そうして、秋になって、土を掘ってみると、芋はほとんどできていませんでした。サツマイモの茎を茂らせてはいけないことも、私は知らなかったのです。
 ナスや、キュウリも、ただ茂らせればいいのではない。きちんと剪定してやらないと、いい実がつかないのです。野菜作りは、とても、とても、奥が深いものだと、やっと気がつきました。毎年、同じように育てても、その年の気候によって、育ち方が違うのです。それぞれの作物によって、与える肥料やタイミングが違うことも分かってきました。

 

 野菜は、決して、私の思うままに育つものではない。
 むしろ、野菜の都合に、私が合わせなければいけないのだ、そういう気持ちになってきました。

 私の畑では、農薬は使っていません。
 だから、たくさんの虫がいます。地面にはミミズが這い、それを狙って、モグラがトンネルを掘っています。周辺の雑草の間に、蜘蛛が糸を張り、いろいろな鳥たちが、土の上を歩いています。

 ある時、スズメの群れが、私の畑にいました。ああ、菜っ葉が食べられている。そう思った私は、スズメを追い払いました。でも、そうではなかったのです。スズメたちは、菜っ葉についている虫を食べてくれていたのでした。野菜作りは、決して、私の思う通りにいくものではありません。

 

 太陽や雨、そして畑にいる様々な生き物たちによって、野菜は育てられ、その恵みを、分けてもらっているのです。私は野菜を育てているのでない、野菜が育つ手伝いをしているのだ。そう考えるようになって、やっと、いい野菜が穫れるようになりました。

 野菜作りから、たくさんのことを学んだ気がします。まだまだ、至らない私の野菜作り。でも、そういう大地の恵みを、できるだけ自然な形で、皆様にも味わっていただきたいと思います。

かんだた店主 中村和三