「あっ、忘れ物!」 そう言って、スタッフが階段を走り降りてきて、外に出ていきました。今お帰りになったお客様の後を追います。何より大事なものの忘れ物。そう、携帯電話の忘れ物なのです。
今や携帯電話は、スマホとも呼ばれ、電話だけでなく、大変に多機能になっているようです。インターネットはもちろん、様々なアプリがあって、持っている人を楽しませてくれるようです。
店に来られるお客様も、注文が終わると、その携帯電話の画面に釘づけになっておられる方もいらっしゃいます。おそばをお出ししても、なかなか目を離さないので、伸びてしまうのではないかと心配になることもあります。時には、画面を見ながら片手でそばを手繰る器用な方も。
ご家族で来られても、お子様が大きくなれば、みなさんそれぞれに、携帯電話を見ながら何かをやっています。お父さんだけが、ニコニコしながらその様子を眺めて、そばの出て来るのを待っていたりします。
先日、たまたま電車で出かけたら、高校生の通学時間でした。高校生のことだから、混み合っている車内は、さぞおしゃべりでやかましいだろうなあ、と思っていたら、妙にシンとしています。そうです、生徒たちは、携帯電話のゲームに夢中で、おしゃべりどころではないのです。
クレジット決済の機械を店に入れたら、なんと、携帯電話で支払いができるのですね。世の中、どういう仕組みになっているのでしょうねえ。
実は私は、電話で話をするのが苦手です。相手の顔が見えないと、なんとなく不安でたまりません。
それに、一日のほとんどを、店の中にいるので、連絡は店の電話で十分です。だから、今まで、携帯電話を待たないで暮らしていました。
どこにいても、電話で呼び出されるなんて、まるで、首に鈴を付けられた猫みたいではありませんか。
ところがそうは言っていられなくなりました。
インターネットで、店のことを紹介しているのですが、フェイスブックを始め、いくつかの情報サイトから、携帯電話の番号の登録を求められたのです。今までは、アカウントだけを登録すれば良かったのですが、なりすましが多くなったため、本人確認をしたいとのことです。
なるほど、携帯電話を持つには、本人であることを確かめられますので、ネットの世界では、その番号が、信用の証となるのですね。
しばらく放っておいたのですが、いよいよ、アカウントを削除すると言われて、仕方なく、携帯電話を持つことにしました。
さて、持ってみると、これがなかなか便利なのですね。
特に、自分のいる位置がわかる機能です。街を歩いていても、山を歩いていても、自分の位置が確認できます。あれっ、カーナビにもなるのですね。
でも、自分が使わないときには、電源はオフ。だから、携帯電話なのに、電話として使ったことはほとんどありません、、。
スタッフは、お客様に追いついたようです。大事な電話を、忘れていってしまわれる方が、時々いらっしゃいます。
わからないことがすぐに調べられる、ネットの世界は確かに便利です。
でも、実際に、見たり聞いたりする、現実の世界を観察することも、大切ですよね。
私は、目の前にいらっしゃるお客様に喜んでいただくことが、一番だと思って、頑張ってそばを打つことにします。